2024.07.17
近年、少子高齢化が進むなかで、人材不足が懸念されています。そのため、どの企業でも生産性向上を意識した取り組みを検討しています。特に製造業ではものづくりを行っているため、人材不足に加えて技術の継承に関する問題も抱えています。そこで今回は、製造業における生産性向上とはどういうことなのか、また取り組むメリットや手法についても紹介します。
目次
まずは製造業の生産性向上とはどういうことなのか、本当に必要なことなのかを見ていきましょう。
そもそも生産性向上とは、必要最低限の人材や資源を使って多くの付加価値を出すように業務効率をアップさせることをいいます。製造業における成果とは、製造した製品のことです。現場では一定の品質を保ち、多くの製品を製造することを求められています。
製造業の生産性向上における手法はさまざまありますが、主に不要な工程の見直しや技術者一人ひとりの技術力向上、生産ラインのデジタル化などがあるでしょう。
ではなぜ製造業で生産性向上に取り組む必要があるのでしょうか?最大の理由は労働力人口が減っているためです。日本では少子高齢化が急速に進んでおり、労働力人口の減少が懸念されています。
実際に「令和5年版厚生労働白書」によると、2020年は6,902万人だった労働力人口が2025年は6,673万人、2040年には6,195万人になると予想されています。2020年と2040年を比べると、700万人ほど人員が減る見込みです。
人材の確保は必要ですが、より少ない労働力でも今と変わらない生産量、またはより多くの生産量を生み出す仕組み作りをしなければなりません。
また日本の労働生産性を世界と比べると、低い傾向にある点も問題点です。公益財団法人日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2023」 では、2022年における日本の1時間あたりの労働生産性は52.3ドルで、OECD加盟の38カ国中30位。1人あたりの労働生産性は85,329ドル、OECD加盟の38カ国中31位です。グローバル化が進む現在では、国内だけではなく世界と競争しなければならないため、生産性向上を図る必要があります。
(出典)
厚生労働省|令和5年度版厚生労働白書
公益財団法人 日本生産性本部|労働生産性の国際比較
次に、製造業において生産性を低下させる原因を見ていきましょう。
作業手順の標準化不足などにより作業ミスが起きると、ミスをカバーするために他の技術者を導入したり確認作業が増えたりします。
そのため、作業ミスが増えれば増えるほど作業効率が低下するのです。最悪の場合、製品の不良率がアップする可能性もあり、再生産や不用品の廃棄にコストがかかるでしょう。
また需要予測や在庫管理が甘いと、製造過多や在庫切れが発生します。製品や時間の無駄が生じるため、生産管理はとても重要です。
製造業では一般的に、1つの製品が完成するまでにさまざまな部署が関係しています。そのため部署間のコミュニケーションが不足すると、連携がうまくいかず修正が増えることもあるでしょう。そうすると無駄な作業が発生するなど生産性の低下につながります。
製造業では職人のように、技術力や業務スキルが特定の技術者に集中するケースがあります。これは業務の属人化と呼ばれる現象で、その技術者がいなければ作業が進まないことも。これでは生産ラインが止まってしまう可能性が高く非常に危険です。
また、その技術者が退職や転職すると技術の継承が行われないことも考えられ、企業としては大きな損失になります。
生産性が低下すると、技術者・企業双方にとってよいことはありません。ここでは、より詳しく生産性向上のメリットを見ていきましょう。
無駄な在庫を抱えることや無駄な作業がなくなるとなれば、必要最低限の材料と人材で多くの製品を製造できます。廃棄にかかるコストや人員にかかるコストなどを削減できるため、結果的に企業の利益アップにつながるでしょう。
コスト削減や利益アップによって、給与面の改善が見られたり残業が少なくなったりすると、技術者のモチベーションアップも期待できます。
今後労働力人口が減ることは避けられません。あらゆる業種で人材不足が叫ばれるなか、必要最低限の人材で生産ラインを稼働できれば、人材不足にも対応できるでしょう。
労働環境が整って技術者が「この企業で長く働きたい」と思えると、離職率を下げることも可能です。また「職場環境がよい」という評判が多くなれば、「あの企業で働きたい」という声も増えて人材確保にもつながるかもしれません。
業務の属人化を防ぎ、どの技術者も一定のノウハウを持てば、製品の安定供給と品質維持が可能になります。品質が良ければ顧客満足度も高くなり、企業のイメージアップやブランド力アップにもつながります。
限られた人材で一定の業務をこなせるようになると、作業効率が上がり、さらに生産性を向上できるケースもあります。人材育成に力を入れられるなど、さまざまな面で好循環が生まれやすくなるでしょう。
生産性の向上ができれば、製品の付加価値の検討や、新製品の開発に時間を充てることができます。そうすれば、競争力を高めることにつながります。
前述のとおり日本の労働生産性は低く、世界の国と比べるとまだまだ向上する余地があります。生産性を高めることができれば、グローバル市場での競争力強化にも寄与するでしょう。
生産性を高めるといっても、やみくもに行っては意味がありません。企業や部署によって必要な工程が異なるためです。生産性向上に必要な手順を考える際に無駄があっては、真の生産性向上にはつながりません。順を追って、無駄のない生産性向上に必要な手順を考えていきましょう。
まずは、どのような目的でどの程度まで、生産性を向上させるべきかを決める必要があります。目的や目標なくはじめてしまうと、どの程度まで生産性を向上させるべきか、結果的に生産性向上できたのかがあいまいになるためです。
目的には利益を高める、コストを軽減する、品質を安定させるなどがあるでしょう。そのうえで、具体的な目標を設定します。例えば利益を昨年より〇%アップする、〇%コスト削減するといったことです。明確な目的や数値化された目標があると、どのように行動すればよいのかが見えてきやすくなるでしょう。
次に行うことは、今ある製造工程において問題点を見つけることです。この作業では、どのような工程なのかを洗い出せるため、本当に必要なのか、人員に過不足はないかといった点もチェックできます。作業手順書を作る際にも役立つでしょう。
また現場で働く技術者の意見を聞く機会にもなるため、どのようなことで困っているのか何があれば便利なのかも確認できます。
問題点が明確に見えてくれば、どうすれば問題点が解消するのかを考えていきましょう。単純に技術力が追いついていないのか、人手不足なのか、設備が充実していないのかなど、さまざまな面から検証するとよいです。
なぜなら、問題となっている事柄には1つの要因だけではなく、複数の要因が影響しているかもしれないためです。また対処法を考える場合には、現場の技術者も交えて話し合うことがポイント。現場を知らない人ばかりが話し合っても、生産性向上にはつながりにくいでしょう。
設備の老朽化が原因で生産性が低下している場合、設備の改善を検討すべきかもしれません。また、業務の効率化を図るために、ITツールを導入するのもおすすめです。ロボットを導入して作業の一部を自動化する方法もあるでしょう。
どこまでの設備やITツールが必要なのかは、企業によって違います。なかには巨大な導入コストに不安を覚える方もいるかもしれませんが、長い目で見るとコストダウンにつながる可能性が高いです。技術者と企業側が話し合ってよりよい環境になるように、設備やITツールの導入を検討するとよいでしょう。
最後に、すぐ実践できる製造業の生産性向上のために意識したいポイントを紹介します。自社で手軽にできる生産性向上の方法を模索している方や起業を考えている方などは、ぜひ参考にしてみてください。
製造業でよく知られた「5S」をあらためて徹底しましょう。「5S」とは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけのことです。整理整頓ができていなければ、どこに何があるのかわからないため作業効率が低下します。清掃ができていない不衛生な現場では無駄な動きが生じたり、製品に悪影響を及ぼしたりすることもあるでしょう。
しつけは、管理者がしっかり管理できているのかを表します。管理者は整理・整頓・清掃・清潔を技術者に徹底させることで、生産性を低下させずに効率的な作業ができる環境を整えられます。
関連記事:
>>製造業が取り組むべき5Sとは? メリットや効率的な進め方などを解説
生産性向上にはコミュニケーションが欠かせません。しかし、多過ぎてもなさ過ぎても生産性低下につながります。適度な頻度で会話をすることが大切です。
同じ部署内はもちろんのこと、他部署とのコミュニケーションもこまめかつスムーズに行えると効率的な作業ができるでしょう。
労働力人口の減少が予測されているため、人材を確保して育成し、定着させる必要があります。
また1人の技術者がさまざまな業務をこなせるように、多能工化することもポイント。そうすれば突発的な欠員にも柔軟に対応でき、業務全体のことを理解して行動できるようになります。
今ある作業手順書を見直すのもよいでしょう。特に作業手順書をずっと見直していない場合は、早急にチェックすることをおすすめします。無駄な工程や熟練した技術者にしか理解できないような内容が含まれている可能性があるためです。
作業手順書は、誰が見ても簡単に理解できるような内容である必要があります。定期的に確認・更新していきましょう。またわかりやすくするために、画像や動画を用いるのも効果的です。
関連記事:
>>作業手順書の作り方をチェック!製造業に必要な内容と効果的な運用ポイントを解説
設備を新しくすることも大切ですが、設備の配置を見直すのも1つの方法です。配置を変えるだけで技術者の動線が変わり、業務効率がアップする可能性があります。生産ラインのなかに業務が滞りがちな工程がないかを洗い出し、チェックしてみましょう。
もちろん、新しい設備を導入したりデジタル化を推進したりすることで、作業時間の短縮や工程の削減もできます。技術者の負担が軽減すれば、生産性向上につながるだけではなく、人材の定着にもつながるでしょう。
製造業の生産性向上は企業の利益に直結するため、企業だけでなく技術者にも影響します。生産性向上によって利益が高まり、給与アップや残業減少につながれば、技術者の仕事と生活のバランスが整って企業への定着が高まるかもしれません。
今後人材不足が懸念される製造業には、人材の確保や育成、定着が最優先事項です。いま一度、生産性向上を考え、作業工程の見直しだけでなく、設備やITツールの導入を考えてはいかがでしょうか。
執筆者
MENTENA編集部
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