2024.05.13
グローバル競争が激化する現代、製造業にとって、製品ライフサイクル全体を管理するPLMは、もはや必須ツールといえるでしょう。しかし、導入には多くの課題もあり、失敗するケースも少なくありません。
そこで今回は、PLMの概要、仕組み、導入手順、成功のポイントなどをわかりやすく解説します。PLM導入を検討している企業担当者の方はもちろん、製造業の業務効率化に関心のある方にも役立つ内容となっています。
目次
PLMとは「Product Lifecycle Management」の頭文字を取ったもので、製品ライフサイクル管理と訳します。具体的には、製品の企画や設計、製造、販売、保守といった、一連の製造工程を管理する取り組みやシステムを指すときに使われる言葉です。
従来の個別システムでは管理が難しかった、膨大な製品情報。PLMでは、設計図面、製造手順、材料リスト、品質管理データなど、製品に関するあらゆる情報を一元的に管理することで、開発力強化、業務効率化・改善、コスト削減を実現します。
PLMの概念は1990年代に生まれたとされていますが、これまでは自動車産業や電機産業など一部の業種でのみ導入が進められてきました。
しかし昨今は社会・企業のグローバル化に伴って、モノづくりの現場全体でニーズの多様化やITの推進が顕著に。製造データも膨大かつ緻密さを増し、これまで以上に効率的な管理が求められるようになっています。
そこで、改めて注目され始めたのがPLMです。
PLMは、情報の一元化により、製造業にとって重要なQCDで(Quality「品質」、Cost「コスト」、Delivery「納期」)を向上させることを目的としています。
例えば、関係部署が情報をリアルタイムに共有できるのがPLMの特徴のひとつですが、この仕組みを使えば、営業部門が得た時代のトレンドやニーズを開発部門へ素早く連携することが可能。つまり「今」市場で求められている製品を、速やかに設計に反映できるというわけです。
製造業では、これからますます国内外での競争が激化していきます。そういった時代背景の中で収益を上げ続けるには、顧客ニーズを素早く察知してそれに応えた製品を市場に投入することが大切。PLMは、変化への対応力が求められる現代に欠かせないシステムとなりつつあるのです。
PLMと似たような言葉に、PDMがあります。PDMとは、Product Data Managementの略称で、CADやBOM(部品表)などの情報を含めて設計段階の工程を一元管理するシステム(製品情報管理システム)のことです。製品ライフサイクルのデータ全体を一元管理するPLMとは、管理対象となる範囲が異なります。
ただし、PLMシステムにPDMとしての機能が備わっていることも多く、両者の間に明確な線引きはありません。どちらも、製品の開発力や生産性を高めるためのシステムという意味では同じです。現場では、設計図面やCADといった限定的な情報を閲覧する場合はPDM、設計データに加えて製造手順や製品の在庫状況、顧客情報などの包括的な情報を閲覧する場合はPLMといった使い分けで活用されています。
PLMは、基本的に以下のような機能で構成されています。
・製品データ管理(PDM)
CADやBOM、図面、仕様書などの設計に関する情報を一元管理する機能。
・製品の設計管理
複数の関係部門が共同作業できるよう、製品の設計プロセスを管理する機能。
・変更管理
製品の変更や改訂を追跡・管理する機能。
・プロジェクト管理
プロジェクトの進行状況を追跡できるよう、スケジュールやリソースを管理する機能。
・サプライヤー管理
サプライチェーン全体の効率化を図るために、サプライヤーとの関係を管理する機能。
・品質管理
製品の品質基準を維持するための管理機能。
・製造プロセス管理
製造工程を計画し、効率の良い製造プロセスをサポートする機能。
・ライフサイクル分析
環境への影響といった持続可能性を考慮し、製品のライフサイクル全体を評価する機能。
こちらでご紹介した機能は、あくまでも代表的なものです。PLMには、そのほかにもポートフォリオ管理機能や原価管理機能など、自社の収益性や市場需要、取引先情報、部品の調達・製造にかかるコストを管理できるさまざまな機能があり、企業ニーズに合わせて選択できるようになっています。
PLMを導入することで、企業が得られるメリットは多岐にわたります。ここでは、代表的な3つのメリットについて説明しましょう。
PLMを導入すると、工期の短縮・生産性の向上が図れます。製造プロセスの一元管理によって、部門間での迅速な情報共有や連携が実現できるためです。中にはExcelや紙を使ってデータを管理する方法もありますが、情報を各部門へ伝達する際に抜け漏れや間違いが起きやすく、確認や更新作業だけでも大幅な時間を要します。そのほかにも、同じようなデータが散らばっていて正しい情報がわかりづらい・最新の情報が見つけられないといった問題点が出てくるでしょう。
そこで、PLMによってデータを統合的に管理できれば、情報が1ヵ所にまとまります。イレギュラーな製品の設計変更が起きたときでも、タイムリーに関係部門への共有が可能。プロジェクトの進行を中断する必要がないため、業務の効率化を進められるのです。
PLMは品質管理にも大きく影響します。仕様や設計データ、品質テストの結果といった情報が一元化されることで、製品の品質基準を遵守しやすくなるためです。
また、データを継続的に追跡・評価することで、製品の性能や不具合に関する問題を早期に発見できる可能性も。問題点やリスクが特定できれば、アフターサービスの提供や製品の品質改善を速やかに行えます。品質の一貫性が確保されれば、顧客の信頼性向上にもつながるでしょう。
無駄な作業や重複プロセスを見直せるのも、PLM導入のメリットです。
例えば、PLMでは情報が一元管理されるため、必要なデータを探す手間がかかりません。
収益に直結しない作業に費やす時間が削減できれば、その分生産性は向上します。
また、各部門とタイムリーに情報が共有できることで、従来起きていた業務の手戻りが起きることも少なくなるでしょう。仮に手戻りが発生したとしても、各工程に必要な情報は紐づけられており、すぐに取りかかることが可能です。リードタイムの短縮に伴って、手戻し作業にかかっていた人件費や材料費を大幅にカットできるというわけです。
PLMにはさまざまなメリットがありますが、正しい手順で取り入れると
さらに導入効果が高まります。ここでは、PLMの導入手順とそれぞれの段階で知っておきたいポイントについて説明しましょう。
PLMの導入にあたり、まずは業務プロセスと課題を明確にすることから始めましょう。具体的に行う作業は、企業の目標や課題、現行プロセスの問題点の洗い出しなどです。加えて、必要な機能とPLMの導入で得られるインパクトを確認しておきます。どのような改善が期待できるかを把握しておくことで、ビジネスニーズとの整合性を図れるのです。PLMの導入が明確になったら、システムの必要性や利点を関係者に説明しておきましょう。
必要なシステム・機能に基づいてソフトウェアを選定します。適切なソフトウェアを選定するには、機能やコストのほかに、各プロバイダーが提供するサービス面(柔軟性、拡張性、導入サポートなど)を比較することが重要です。
特に製造の現場では、さまざまな業務システムを使用します。ほかの業務システムと連携しやすいよう、PLMの機能・サービス面を慎重に検討してください。
要件に合う最適なソリューションを絞り込んだら、デモの実施を行います。このとき、ユーザーからのフィードバックを忘れずに収集しましょう。選定したPLMがビジネスニーズを満たしつつ、適切なROI(投資収益率)を提供することが確認できれば、次の段階へと進みます。
導入計画では、導入する範囲やスケジュール、リソース、コストに加えて、誰がどのような役割や責任を負うのか決定します。
併せて、ソフトウェアの構成やカスタマイズ、データ移行といったことを検討したうえで、PLM導入後のサポート戦略を検討しましょう。
さらに、PLM導入で失敗しないためには、プロジェクトの進捗状況を客観的に監視・評価できる仕組みを構築しておくのもおすすめです。
策定した導入計画に基づき、PLMソフトウェアを導入します。導入時はプロバイダーが提供している基本設定をベースとし、企業ニーズに合わせてシステムをカスタマイズしていきます。ほかの業務システムを使用している場合は、連携の作業も必要です。それぞれの業務システムを一元管理することは、収益の増加につながります。システムの構築や既存システムとの統合が完了すれば、いよいよ運用開始です。
PLMの運用を開始するにあたり、社員へのトレーニングプランを策定します。管理者・エンドユーザー・システム管理者など立場ごとに異なるトレーニングを行うのがポイントです。トレーニングでは、PLMの導入に必要なスキルや知識を教育します。社員が基本操作やベストプラクティスを理解し、実際の業務で活用できる状態を目指しましょう。
PLMは継続的なプロジェクトであり、導入後も引き続き評価と改善を繰り返す必要があります。実際にシステムを活用する社員からのフィードバックを適宜反映させることで、さらなる機能強化を実現できるでしょう。
また、導入後は、PLMの定期的なサポートと保守も忘れずに行ってください。ソフトウェアにはバグがつきものであり、アップデートなどでパフォーマンスを最適化することにより安定性が確保されます。システムを長く適切に提供し続けるためには、欠かせない工程です。
PLMの導入を成功させるには、いくつかの注意点があります。
PLMの導入には、組織全体の理解・協力が不可欠です。全体最適を目指すため、個別最適の組み合わせではPLMの成果を最大化することはできません。そこで、社員からの快い理解・協力を得るには、PLMによってどのようなメリットがもたらされるのかを明確にしておくことが重要なポイントとなります。システムを新しく覚えなければならないことに難色を示す社員もいるかもしれませんが、事前にPLMで実現できることがわかっていれば、導入を前向きに検討しやすくなるはずです。
PLMは、既存システムも含めてあらゆるデータを一元管理することで真価を発揮します。つまり、連携できない既存システムがあれば、その分導入効果が低くなるということです。だからこそ、導入前に既存システムとの連携可否を確認しておくことが不可欠。連携できない場合の対処法について、PLMプロバイダーに確認しておきましょう。
最終的に、製造工程の全データを紐づけるのがPLMのゴールではありますが、最初からすべての現場で導入を成功させるのは困難です。
そこで、新しくPLMを導入する場合は、全体最適を実現するために重要な評価項目に絞ったスモールスタートがおすすめ。スモールスタートは、部門や機能を限定してシステムを導入する手法です。範囲が限られているため効果検証がしやすく、結果を考慮しながら徐々に適用範囲を広げたいときに適しています。
例えば、一元管理を実現するためには一元化のための図番・型番といった共通のキーを合意し、入力、管理し、継続的に運用する必要があります。
ひとつの部門で成果が出れば、ほかの部門への導入もスムーズに進められるでしょう。
PLMの概要や仕組み、導入メリット、失敗しないための注意点などについて解説しました。製品開発や製造工程におけるデータを一元管理できるPLMは、事業の収益性や業務の効率化を高めるために欠かせません。
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執筆者
MENTENA編集部
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