2024.07.18
製造業の現場をより良くするために、5Sという取り組みが注目されています。製造業だけでなく医療やサービス業など、幅広いジャンルの職場で導入されており、メリットも多くあります。
そこで今回は、5Sの詳細をはじめ、魅力や注意点などを解説します。また、製造業における5Sの効率的な進め方や改善事例についても紹介します。5Sについてまだよく理解しきれていない、どのように導入すればよいのかわからない、導入はしているがなかなかうまくいかないといった方は特に必見です。
目次
さまざまなジャンルの職種で導入されている5S。仕事の質を向上させ、安全に職務をこなすための5項目(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)のことを指します。「ゴエス」「ファイブエス」などの名称で呼ばれることも。
言葉自体は聞いたことがあっても、5項目それぞれの詳しい意味を理解しきれていない方もいるでしょう。そこでまずは、5Sそれぞれの概要からチェックしていきます。
5Sに含まれる「整理」は、職場に必要な物だけを残し、不要な物を片づけたり、処分したりすること。無駄な物が排除された職場環境に整えることで業務効率をアップさせることが主な狙いです。
製造業における整理では、製品の生産に必要な材料か否かの区別や、製造過程で出た廃棄物の処分などが含まれます。具体的には、不要な物に赤で印をつける、処分する期日を設けるといったことです。
また、物だけでなく、情報の整理も含まれます。
例えば、資材購入費などの最新の伝票や、今現在生産している製品の図面のみを残すといった事案が代表的です。不要な物や情報を処分して整理することで、現場の混乱を避けることができます。処分期日の決定やどの情報を残すかなど、ある程度基準を設け、それに沿って作業を進めるのが基本です。
各職場において必要な物を使いやすいように配置することを「整頓」といいます。製造業では、必要な道具や材料をわかりやすい場所に保管する、片づける場所を決めるといったことが求められるのです。
また、取り出しやすさや片づけやすさに配慮した場所を選ぶことや、片づける場所を技術者全員で統一することも意識したいポイントです。
作業に必要な道具や材料をいつも違う場所に置いたり、使いにくい場所に保管したりすると、その都度探し回ったり、取り出すのに時間がかかったりするため、タイムロスになりかねません。使った物は所定の場所にすぐに片づけて、次に使いたい人がすぐに使える環境を整えることも意識しましょう。
整頓を徹底することで作業効率アップが狙えるほか、事故やケガの防止にも役立てることが可能です。
また、物だけでなく、さまざまな情報を整頓すれば、情報流出を防止する管理体制も整います。
「清掃」は、文字通り職場をきれいに整えることを指します。床や機械のごみ・汚れを取るのはもちろん、製造過程で必要な道具の清掃、資材の保守管理や点検といった作業も清掃に含まれます。いつでもきれいな状態を維持しておくことで、問題点の発見も速やかにできるため、トラブルに対する対策も速やかに導入可能です。
また、事故やケガといったリスクの回避、機械の破損防止などにも役立ちます。
清掃は、整理・整頓がなされていて初めて実行できる項目。そのため、整理・整頓・清掃の3つをセットにして「3S」と呼ばれることもあります。
「3S」を実行し、きれいな職場環境を維持していることを指すのが清潔です。
つまり、定期的かつ、継続的に整理・整頓・清掃ができていることが前提となります。「3S」がしっかり実行できているかをチェックし、管理と見直しを行いましょう。
また、不要な物が出ないように、必要な物以外は購入しない、物を壊さないといったことにも気を配ります。ここまでの4項目をセットにして「4S」と呼ばれます。
しつけは、整理・整頓・清掃・清潔の「4S」を、社内全体で徹底し、習慣づけることを指します。
たとえ繁忙期で仕事が忙しい、急な発注で仕事量が増えたといったイレギュラーな場合でも、常に「4S」を実行できているかどうかが焦点です。作業内容が5Sのルールに反さないよう、きっちりこなすことが求められます。
5Sは、一見すると当たり前かつ、それほど重要でないように思えることもあります。
しかし、このちょっとした努力と工夫を積んでいくことで、数多くのメリットが得られるのです。ここからは、製造業で5Sを導入する利点をご紹介しましょう。
5Sの導入によって、無駄な物をなくし、必要な物だけを工場内に置くことで、使いたい物がすぐに取り出せる状態に整います。この結果、道具をその都度探さずに済むようになります。すると、製造業の現場で作業効率アップが実現するのです。作業が円滑に進めば、自ずと利益率の向上も期待できます。
作業効率がアップするということは、日々の業務をスムーズに行える環境が整っているということ。結果的に、技術者のストレスも軽減されるでしょう。
5Sを社内で徹底することにより、現場が清潔になると、美しい状態が基準になります。すると、ゴミや汚れが目につくようになり、自然と掃除をするようになるのです。
つまり、5Sの規律を守ろうという技術者の意識が向上します。職場に勤める全職員の意識が向上すれば、よりよい環境を継続的に維持することが可能です。
5Sは、1人だけで実行しても意味がありません。同じ職場に勤める技術者全員で遂行し、よりよい職場環境を維持することが大切です。そのためには、5Sに対する価値観や考え、方法を共有する必要があります。技術者の足並みがそろえば、チームワークの強化にもつながるのです。
また、技術者同士のコミュニケーションが活発となり、働きやすい環境が整うことも期待できます。
無駄な物を購入しない、処分するといったことを実行する5Sでは、コスト削減も可能。
整理整頓によって職場内が見えやすくなり、在庫管理がしやすい、業務効率化によって人員を最小限にできるといった点が、コスト削減につながる理由です。コスト削減は、作業効率化と相まって、より高い利益率を目指すことができます。
製造業の現場では、常に細心の注意を払わなければ事故やケガにつながることもあります。
そこで5Sを導入して職場環境を整えることで、事故やケガといったリスクが回避できるのです。具体的には、機械を清掃・点検しておくことで安全に作動する、足元の汚れをキレイにしておくことで技術者の転倒を予防できるといった例が代表的。
また、床に転がった使用中の資材を踏んでケガをする、といったリスクも回避できます。
5Sは、製造業において、さまざまなメリットをもたらします。
ただし、「5Sが製造業をダメにした」と言われるように、なかにはデメリットもあるため、実行前に十分理解しておくことが大切です。デメリットをきちんと把握すれば、よりスムーズに5Sが導入できます。
5Sを導入したからといって、必ずご紹介したすべてのメリットが得られるわけではありません。整理・整頓・清掃の3Sが土台となり、そのうえで清潔が成り立ち、その結果しつけが実行できる仕組みです。
つまり、5Sそれぞれを単独で導入しても意味がなく、5項目すべてを導入し、整理から順を追ってこなす必要があります。正しく進めないことで、作業効率の低下を招き、無駄な作業の増加やストレスの原因になる可能性もあるため要注意です。
5Sは、一時的に取り入れても、その効果は発揮されません。5Sに関する明確なルールを設け、技術者全員に意識や行動を定着させる必要があります。
まずは3Sを徹底し、そのうえで4Sを導入し、最終的に5Sすべてを導入する形で段階を踏んで導入します。
そして、継続できる体制を着実に整えることが重要なポイントです。5Sを導入したあと、継続することで徐々に効果が得られることも覚えておきましょう。
あくまで、5Sは生産性向上やリスク軽減などを目的としたときの「手段」です。もし、5Sの目的が「やること自体」になり、本来の目的が後回しになる場合、形骸化を招きます。形骸化した5S活動は、その効果が薄れるどころか現場の負担になる可能性があります。
例えば、管理者がチェックリストを重視しすぎるあまり、実際の業務にそぐわない基準が適用されるケースがあります。また、5S活動を形だけ続けることで、現場の従業員が「やらされている」と感じ、モチベーションが低下することもあります。
実際に製造業の現場で5Sに取り組むには、どのように進めればよいのでしょうか。ここからは、5Sの基本的な進め方をご紹介します。
5Sの導入を決定したら、まずは目的を明確化させましょう。なんのために5Sを導入するのかをはっきりさせ、わかりやすくまとめます。「不良品発生率〇%削減」「利益率〇%アップ」など、具体的な数字で表すのも1つの手段です。
目的を明確化したら、会社全体に共有しましょう。ミーティングなどの場を活用し、不明点が残らないよう技術者にしっかり説明して5Sに対する認識を統一します。工場内の掲示板などに5Sの内容について記載した文書を掲示する方法もおすすめです。
今現在の業務内容を可視化して、問題点を洗い出します。
すると、自ずと5Sを導入するにあたり何が必要なのか、何が問題なのかが見えてくるのです。
業務の可視化は、5Sを導入した結果、何をどれだけ改善できたか図るための基準となります。
明確化した目的や業務の可視化を参考に、5Sの具体的な活動計画を作成します。整理・整頓・清掃・清潔・しつけの順番を守ってスケジュールを組むことが大切です。
そして、活動計画に沿って、会社全体で実行しましょう。日々レポートを作成する、定期的な振り返りや改善策の導入なども必要な作業です。作業は個々で行うのではなく技術者全員で実施し、共有することも忘れてはいけません。
5Sを導入するにあたり、できるだけ効率的に活動を進めたいと思うのは当然のこと。そこでここでは、製造業で5Sを効率的に進めるために重要なポイントを5つご紹介します。
5S活動を成功させるためには、経営層の積極的なサポートが不可欠です。経営層が5S活動の重要性を理解し、組織全体としての取り組みであることを明示することで、技術者は5S活動に対する意識を高め、主体的に参加するようになります。
特に、5S活動の進捗状況を定期的にチェックし、その成果を評価することで、組織全体での一体感を醸成することができます。
経営層のサポートは重要ですが、すべてがトップダウン式ではなく、実際に現場で働く技術者の意見を採り入れることを忘れてはいけません。
会社の重役だけで決めた内容を盛り込んだ5Sを導入すると、技術者たちからの納得が得られにくく、習慣化することも難しくなりがちです。
また、現場をよく知る技術者の意見を取り入れることで、より効率的に5Sが導入できます。交代制を取り入れている企業では、技術者全員に意見が聞けるよう、アンケート用紙の配布やメール、チャットの送信といった方法で意見を求めてみましょう。
5Sそれぞれに、具体的な項目を設け、どこまでのレベルを求めるのか、数値や言葉で表したチェックシートを作成しましょう。
〇×や5段階評価などを活用して、誰が見てもひと目でわかりやすい書式を心掛けてください。チェックシートの存在は、基準が明確となり、会社全体で認識の統一が叶います。5Sそれぞれのチェックシートの記載例をご紹介しましょう。
この例を参考に、自社にマッチする内容を取り入れて、オリジナリティを盛り込んだチェックシートを作ってみてください。
5S活動の成果を「見える化」することも重要なポイントです。
例えば、改善活動の前後での作業効率や品質の向上、事故発生率の低下などを数値化し、職場全体で共有することで、従業員のモチベーションを高めることができます。
また、成果が目に見える形で現れると、他の部署や工場でも5S活動の導入を進めやすくなるため、全社的な改善につながるでしょう。
5S活動は一度にすべてを完璧に行うことは難しいため、段階的に進めることが推奨されます。
例えば、まずは「整理」と「整頓」から始め、これらがしっかりと定着した段階で「清掃」「清潔」「しつけ」へと移行するのが効果的です。
5Sの導入後に、やりづらさを感じたり問題が発生したりすることも考えられます。そこで、定期的に振り返り、必要であれば新たなルールを策定しましょう。現場の状況を考慮して決めることで、5Sを継続しやすい環境が整います。新たなルール作成時にも、現場の声を大切にしましょう。
さらに、一度5Sが導入されたとしても、それを継続し、定期的に見直すことで、長期的に成果を維持することが可能となります。フォローアップのためのチェックリストや評価制度を導入することで、現場の従業員が自分たちで改善を行う動機付けを促すことができます。
5S活動の改善事例を通して、具体的な成果をイメージしやすくすることができます。ここでは、実際の製造業における改善事例をいくつか紹介します。
枚岡合金工具株式会社では、よく使う工具を壁に掛けて取り出しやすいようにしています。
また、その壁に工具のアウトラインを書いておくことで違う場所に掛けてしまうことを防いでいます。
その他にも消耗品のストックを壁に掛けて管理し、壁掛けフックの1番奥にFAXの注文用紙を掛けておくことで、ストックがなくなった時に過不足なく発注できるようになりました。
また、工具を収納するためのコンビニ棚を設置したことにより、工具の取り出し時間を10秒にすることができました。
株式会社イマオコーポレーションでは、組立作業において「必要な工具の把握」や「構成部品の集荷」に時間がかかるという問題がありました。
この問題に対処するため、工具手順書の作成、棚レイアウトの変更、集荷担当者の設置を行いました。集荷担当者の集荷時間は約40分ほどに増えてしまいましたが、他の作業者の集荷時間をなくすことができるため、平均すると一人あたり18分/日ほどの集荷時間削減につなげることができました。
また、作業現場の各所に花や小物を設置し、雰囲気を明るくしました。花や小物によってコミュニケーションが増え、目の保養にもなり心を落ち着かせる効果も出ました。
(出典)
株式会社イマオコーポレーション|作業手順を見直し、段取り時間短縮
5Sは今現在の問題を洗い出し、より効率的な業務を実行するために、さまざまな業種にとって重要な役割を果たす取り組みです。製造業においては、作業効率の向上やコスト削減などが叶い、利益率向上も目指せます。
そのような多くのメリットがある5Sは、会社全体で基準を統一し、継続することが大切です。目に見える形でチェックシートを作成する、技術者の意見を取り入れるといったポイントに注意して、自社にマッチした5Sを導入してみてください。
また、5Sと合わせて当社の「MENTENA(メンテナ)」を導入することで、さらなる効率化を目指せます。「MENTENA(メンテナ)」は、クラウド型の設備管理システムです。電子化されたチェックシートの活用や予備品管理が可能となっており、より作業の効率化を目指したい企業さまをサポートいたします。
執筆者
MENTENA編集部
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