2024.08.08
製品品質の維持や顧客への供給責任を全うするために重要な業務である設備保全。保全業務や機械修理を行う際には、電気工事士をはじめとした資格が必要となる場合があります。そこで今回は、設備保全や機械修理において求められる資格やスキルを紹介。併せて、設備保全・機械修理の業務内容と設備保全体制の構築方法、設備保全を行うメリット・デメリットも解説します。業務改善を検討している方はぜひチェックしてみてください。
目次
設備保全とは、機械が故障しないように整備して正常に作動する状態を保つ活動のこと。具体的には、点検・検査・調整・修理・交換などの作業を指します。日々の点検や定期的な検査を怠ることは、突然の設備トラブル発生の要因になるでしょう。機械が故障・停止するまで状態が悪化すると、不良品の発生や納期に間に合わないといった事態が避けられなくなります。多くの機械が導入されている製造業の生産現場において、設備保全は欠かせない業務といえるのです。
製造業において、設備保全には3つの目的があります。それぞれ詳しく解説しましょう。
設備保全を行う目的の1つは、製造業の生産現場における安全性の確保です。保全業務が正しく行われていなければ、機械が故障する・誤作動するといったリスクが高まります。突然の設備トラブルは、人の生死に関わる重大な事故を引き起こしかねません。設備保全体制を構築しておくことで事故を未然に防止できるため、人命の安全確保につながるでしょう。
設備保全を行う2つ目の目的は、生産活動の維持です。設備保全を怠った結果、機械の故障や誤作動が起こると、生産ラインが停止。サイクルタイムが増加するため、当初の生産計画を急きょ変更しなければなりません。設備保全を行っておくことで、生産ラインが停止する事態を防止でき、品質の均一化も図ることができます。設備保全は、製造業にとって重要な生産活動を維持するために必要不可欠な業務といえるでしょう。
設備保全を行う3つ目の目的は、無駄なコストの削減です。機械の誤作動が起こると、不良品発生のリスクが高まります。機械が正常に作動し続けることは、製品ロスを防ぐことや稼働停止時にかかり続ける人件費を削減することにつながります。設備保全を行うことで、コストパフォーマンスのよい生産体制が確立するでしょう。
設備保全は「予防保全」「事後保全」「予知保全」の3種類に分けられます。それぞれの内容について詳しく説明しましょう。
予防保全とは、重大な事故やトラブルを防ぐため、定期的に保全業務を行う手法のこと。事故やトラブルが発生する前に対策を講じておくことで、生産ラインへの影響を最小限に抑えられます。予防保全は、十分に計画を立ててから作業を実行できるところが大きな特徴です。定期的なイベントとして運用しやすい点がメリットですが、保全工数が増える、予防のために交換する部材費がかかるといった点がデメリットとして挙げられます。
予防保全のなかでも、機械の稼働状況や部品の状態、劣化状況によって点検・交換を行う手法が「状態基準保全」です。機械が壊れそうなときに作業するため、不要なコストを抑えられます。ただし、状態基準保全には機械の状態を判断するための高度なスキルが必要です。長年設備に携わっている熟練技術者が保全業務を行う必要があります。
一方、一定の期間を空けて保全を行うのが「時間基準保全」。ある程度の時間が経過すれば部品が新調されるため、より多くの故障が起きにくくなりますが、メンテナンス費用が膨れ上がります。
事後保全とは、異常発生時に対応する保全方法のこと。保全にかかる作業工数を最小限に抑えられる点がメリットです。ただし、不具合の状態によっては大きな損失が発生する恐れもあるため注意しなければなりません。機能が停止したときの影響を考慮したうえであえて予防保全しない設備を決めておくことで、作業の効率化につながるでしょう。
予知保全とは、機械トラブルが発生しそうなタイミングを予知して事前に作業を行う保全方法のこと。予知保全を行う際は、機械を監視機器で常に監視し、得られた計測データから異常を判定します。
近年、急速に発達しているAI技術を活用したこの保全方法は、予防保全の回数を減らせる、事後保全を実施する前に対応できるといった点が大きなメリットです。予知保全システムを導入することで、定期点検では防ぎきれなかった突発的なトラブルの回避も現実的となるでしょう。
「設備保全」と意味合いが似ている言葉には「機械修理」や「メンテナンス」があります。「機械修理」は、機械に何らかのトラブルが発生した際に行う処置のこと。機械が正常に稼働し続けるために取り組む設備保全の一部です。
「メンテナンス」は、設備保全と同様にトラブルが発生する前に点検・整備することをいいます。外部のメーカーが提供するサービスとして「メンテナンス」、自社で行う業務の1つとして「設備保全」と表されるケースが多いです。
設備保全や機械修理を行う際には、以下のような資格・スキルが必要です。詳細な内容を確認しておきましょう。
電気系統の設備保全を行うときには、電気工事士の資格が必要となる場合もあります。また、電気工事士の資格があると、電気設備の施工が可能です。ただし、第一種電気工事士と第二種電気工事士では施工できる範囲が異なります。電気系統を扱う際には、何処まで施工可能なのか事前に確認しておきましょう。
機械保全技能士とは、機械保全に関する技能や知識を身につけたうえで機械保全技能検定に合格することで得られる資格です。機械が正常かつ安全に運転し続けるために必要な幅広い見識や技術を備えておくことで、実際に保全活動を行う現場でも適切に対処できるでしょう。
以下の記事では機械保全技能士試験について、1級と2級の概要から合格率、試験対策まで詳しく解説しています。
設備保全や機械修理を行う際には、対象となる機械の構造や性能、正常時の動作などを十分に理解しておくことが大切です。機械の特性や仕組みを把握しておくことで異常を検知し、適切に修理できます。自社で使用している機械の知識を深めておくことは、保守や異常を診断するといったスキルの向上にもつながるでしょう。
「QCD」は、製造業の生産体制に欠かせない「品質(Quality)」「コスト(Cost)」「納期(Delivery)」という3つの要素を表す言葉。
この3つの要素は、生産活動を行うときだけでなく設備保全に取り組むときにも意識しておくことが大切です。機械が異常を起こして停止すると、生産ラインの停止や品質低下に直結します。不良品が生まれたことによる無駄なコストの発生、稼働停止による納期への影響も考えられるでしょう。
設備保全に関わるすべての担当者がQCDに対する高い意識を持つことは、生産性の維持・向上につながるのです。
設備保全の一部である機械修理は、基本的に以下の流れで行います。各工程の作業内容を押さえておきましょう。
機械に不具合が生じた際には、原因の調査・予測を行います。まずは、目視で確認できる故障箇所や異常な音がないかなどの調査です。機械の様子と機械図面を照らし合わせながら確認します。集めた情報から、原因となっている故障箇所の予測を立てておきましょう。
次に、故障していると予測した箇所を分解します。故障の原因である可能性が高いパーツや分解しやすい部品からチェックすると効率的です。分解した箇所が原因ではなかった場合、再度原因調査と予測を行い、分解・原因診断を実施しましょう。
原因を特定できたら、交換する部品を発注して調達します。必要な部品が届くまでに時間がかかる場合もあるため、早期に原因を特定しましょう。自社内で予備品を確保したり、独自に製作したりするのも方法です。
必要な部品が入手できたら、部品交換を行います。部品の交換後は、分解したパーツを組み立てて復旧しましょう。
復旧作業が完了したら、機械の試運転を行います。生産活動を再開する前には、機械が正常に作動するかチェックしておくことが大切です。稼働時の動作や音に違和感があれば、もう一度原因を調査して分解・部品交換を行いましょう。
試運転で機械が正常に稼働することが確認できたら、保全作業に移ります。機械トラブルが発生した際には、今後同様の不具合が発生しないように対策を講じておくことが大切です。なぜ不具合が発生したのかを十分に分析して再発防止に努めましょう。
設備保全体制は、以下のようなステップを踏むことで構築できます。それぞれの内容について詳しく解説しましょう。
設備保全体制を構築する際は、設備管理台帳を作成することから始めましょう。設備管理台帳には、保有している設備に関する詳細な情報を記載します。具体的には、機械の種類や導入時期、点検箇所、点検・整備のサイクル、消耗品の部品番号といった情報です。このほかにも、保全活動に必要となる情報はすべて記載しておくことで作業時に確認しやすくなります。
設備管理台帳に設備に関する詳細な情報を記載したら、保全計画を立てます。設備管理台帳に記した点検・整備サイクルをもとに、いつ、だれがどの設備の保全作業を行うのか決めましょう。保全計画を立てる際には、特定の日にちや技術者に作業が集中するといった事態が発生しないよう、調整する必要があります。保全サイクルを基準として、無理のないスケジュールで実施できる保全計画を作成しましょう。
保全計画を作成したあとは、計画に基づいて保全活動を実施します。点検・整備に取りかかる前には、作業指示書を発行しておきましょう。作業指示書は、作業を行う日時や担当者、担当する機械、作業方法をまとめた書類です。作業指示書があることで、点検・整備作業をスムーズに進められるでしょう。
点検・整備が完了したら、作業結果と実績を記録して保全に関わる技術者や責任者へ内容を報告します。作業結果や実績を記録しておくことは、万が一トラブルが発生した際の参考となる、今後の保全活動を向上させるために活かせるなどのメリットがあるのです。作業中に少しでも異常を確認した場合は、記録として残しておきましょう。
保全計画にあるすべての作業を終えたあとは、必ずフィードバックを行いましょう。保全計画と結果、機械の稼働状況を照らし合わせて、保全計画を立て直す必要があるか検討します。稼働が少ないかつ異常が起こっていない機械は保全活動の回数を減らす、機械の劣化による影響が心配される場合は点検する回数を増やすなどの調整を行うことで、より効果的な保全活動となるでしょう。
設備保全体制を構築するときに、押さえておきたい3つのポイントをまとめました。
設備保全による効果を高めるためには、生産・保全部門の連携が円滑に取れるように情報共有できる体制を整えておくことが大切です。生産ラインを停止して行う場合もある保全活動は、生産活動に大きな影響を与えます。保全部門は、工場の生産計画を十分に把握したうえで保全計画を立てる必要があります。
また、保全部門だけですべての異常に気付くことはできません。実際に機械を使用する生産部門の技術者が異常を確認した場合には、早急に保全部門へ連絡する必要があります。責任者同士の連携はもちろん、保全に関する内容を記した報告書も内容を共有できるよう体制を整えておきましょう。
設備保全体制をより強化したいのであれば、IoT導入もおすすめです。IoTとは、モノをインターネットとつなぐ技術のこと。工場の機械に監視センサーをつけて自動的に異常を検知する予知保全システムもIoTによるものです。機械トラブルを最小限に抑えたい、保全工数を削減して生産活動を強化したいといった場合には、IoTを導入して予知保全に力を入れてみてもよいかもしれません。
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設備保全は、製造業において3つのメリットがあります。それぞれ詳しく解説しましょう。
設備保全を行う大きなメリットは、機械トラブルを防げることです。機械が稼働し続けていると、経年劣化をはじめとしたさまざまな原因によって異常が発生します。いずれ起こりうる機械トラブルを未然に防止できることは、トラブル発生時に生じる損失を最小限に抑えられるでしょう。
設備保全を行うことは、「QCD(品質、コスト、納期)」の維持に直結します。機械が正常に作動することによって生産スピードと品質が安定します。設備トラブルによる生産ラインの停止期間や不良品が発生しないことは、コスト削減につながるでしょう。作業が滞りなく進むことで確実に納期を守り、顧客への安定した製品共有も実現するのです。製造業にとって重要な要素である「QCD」を維持できることは、設備保全を行う大きなメリットといえるでしょう。
設備保全に取り組む際に生じる可能性がある、2つのデメリットもチェックしておきましょう。
連続稼働している機械や大きな機械のなかには、稼働中にすべての点検作業が行えないものもあります。稼働停止時のみ点検できる機械の保全活動を行う際は、工場の生産自体を停止しなければなりません。生産部門では、保全活動によって生産ラインを停止する日があることを想定したうえで生産計画を立てる必要があるでしょう。
予防保全では、機械が故障する前に部品や本体を交換します。過剰に行うことで余分なコストが発生してしまう場合があるのです。予防保全を行うときは、保全計画のフィードバックを入念に行い、無駄のない適切なプランを立てておく必要があるでしょう。
設備保全・機械修理に必要な資格やスキル、設備保全の構築方法やメリット・デメリットをまとめてご紹介しました。機械が正常に稼働し続けるために重要な役割を果たす設備保全は、製造業の生産性を維持・向上させるためになくてはならない業務です。予防保全によるトラブル防止や事後保全によるコストを考慮した保全、デジタル技術を活用した予知保全を適所に取り入れることで、効率のよい設備保全体制が整うでしょう。
「MENTENA(メンテナ」は、クラウド型の設備保全サービスです。設備台帳の管理、作業計画や履歴の作成などができ、データの一元管理により情報共有が容易に行えるため、効率のよい保全活動を目指す企業さまを支援いたします。
執筆者
MENTENA編集部
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